マウス精子形成幹細胞の集団は成体精巣内で、他の組織幹細胞と同様に、ニッチと呼ばれる特殊な微小環境に位置し、そこで自己複製と分化細胞の供給を行っていると考えられている。しかし、ほ乳類における精子形成幹細胞のニッチの実体は、構造の点でも、そこで機能する分子メカニズムの点でも未だ明らかになっていない。 本研究では、幹細胞を含む少数の細胞集団である未分化型精原細胞の局在と、分化に伴う局在の変化を明らかにすることによってこの問題にアプローチした。具体的には、未分化型精原細胞に特異的な遺伝子として我々が同定したNgn3の発現制御領域を用いてこの細胞をGFPで標識した。このマウスを用い、独自に開発した生きた精巣内で蛍光標識細胞を連続観察する系を用いて、実際の精巣内での未分化型精原細胞の増殖と分化の様子を観察した。 その結果、この細胞は、血管の分岐点の付近と言う構造的に特殊な領域に好んで局在し、分化に伴ってこの領域から細胞が出て散らばっていく事が明らかとなった。更に、実験的に血管の走行パターンを変えると、未分化型精原細胞の局在変わり、血管の走行ときれいにコーディネートすることが分かった。このことは、ほ乳類精子形成幹細胞のニッチが、ショウジョウバエや線虫の場合とは異なった、柔軟な機構により形作られている可能性を示す。これらの生物に比べて遙かに体が大きく、寿命が長いほ乳類にとって都合の良いシステムと考えられた。
|