増殖因子受容体とインテグリンの間にはシグナルクロストークが存在し、増殖や運動を制御していると考えられているが、その相互作用の分子機構は不明である。私は免疫グロブリン様分子Necl-5という第三の因子が、PDGF受容体やインテグリンαvβ3と機能的に相互作用し、細胞の運動と増殖を促進することを明らかにしている。本年度の研究では、Necl-5がインテグリンαvβ3と物理的にも相互作用し、この両者の結合が細胞運動の先導端にインテグリンαvβ3によって形成されるフォーカルコンプレックスという未熟な細胞-基質間接着の形成に重要であることを明らかにした。また、この現象はPDGFによる低分子量Gタンパク質Racの活性化に依存していた。この研究成果は、現在、J.Biol.Chem.誌に投稿中である。また最近、Necl-5はインテグリンαvβ3だけでなくPDGF受容体とも物理的に相互作用し、三者複合体も形成することが明らかとなってきている。これら三者の相互作用がPDGF受容体の細胞表面の量を調節し、シグナル伝達を制御していることも明らかになりつつある。 一方、増殖因子受容体とインテグリンの間のシグナルクロストークは、PDGF受容体とインテグリンαvβ3以外にもその存在が報告されている。そこで、他の増殖因子受容体やインテグリンのシグナルクロストークやその相互作用においてもNecl-5や他のNeclファミリーのメンバーなどの第三の因子が制御している可能性について、現在、スクリーニングを行っている。その結果、Necl-5はインテグリンαvを軸としたインテグリンヘテロダイマー群と、またNecl-2は上皮細胞特異的なインテグリンα6β4と相互作用することが明らかとなってきている。
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