正常成体マウス脳の脳室下層で継続的に産み出される新生ニューロンは、嗅球へ向かって長距離を高速で移動して嗅覚に関与する神経回路を再構築する。しかし、中大脳動脈閉塞モデルにおいては、この新生ニューロンの一部が虚血線条体へ遊走する。本研究は、ノックアウトマウスの解析を中心に、この移動の制御における分泌性蛋白質Slitとその受容体Roboを介するシグナル伝達経路の機能を明らかにすることを目的として行っている。平成18年度は以下の成果を得た。 1.Slit1/2ノックアウトマウスの表現型の解析 Slit1/2ノックアウトマウスの脳を詳細に解析し、嗅球が有意に小さいこと、脳室と嗅球をつなぐ細胞移動経路の容積・形態が変化していることを明らかにした。同ノックアウトマウスの脳室下帯にアルカリ性フォスファターゼを発現するレトロウイルスを注入し、一定期間飼育した後に脳を固定して、標識された細胞の分布を解析したところ、細胞の移動効率が著しく低下していることが判明した。この細胞移動の異常を詳細に解析するため、マウスの脳スライスをミリポアフィルター上で培養し、細胞の挙動を記録し、移動方向と速度を解析する実験系を確立した。 2.虚血後のニューロブラストの移動におけるSlit蛋白質の機能の解析 Slit1-/-Slit2+/-マウスの中大脳動脈を閉塞し、脳梗塞に対する反応の違いを検討している。同ノックアウトマウスは、手術後野生型と同様に生存し、梗塞巣の大きさには有意な差がないことを確認した。
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