研究概要 |
巨大ひずみの導入によって形成された材料は通常の多結晶材料に比べて結晶粒径が圧倒的に小さく,このことが材料の力学挙動にさまざまな特異現象をもたらしていると想像される.しかし粒径微細化によって生ずる力学的な効果を理論的または数値的に予測することは難しかった.メゾレベル変形解析では,材料の力学特性の結晶粒径依存性の発現メカニズムについて3つの面から詳細に検討を行った.第一は結晶粒内に形成される大きな塑性ひずみ勾配とそれに伴って蓄積する高密度転位の効果に関するものであり,これについては研究代表者の提案するモデルによる予測結果と,既往の実験結果との比較を通してその現象予測性を確認した.第二と第三は結晶粒界と転位との相互作用に関するものであり,この相互作用の効果を組み込んだ新しい結晶塑性解析のモデルを構築し,これを用いることにより多結晶材料の降伏強度が結晶粒径に依存して大きく異なる現象が再現された.また転位運動の障壁としての粒界の影響についてはまだ議論の余地があるが,どのような形であってもこれを自在に取り込むことが可能な高次結晶塑性論の定式化について基礎的検討を行ない,力学理論としての枠組みの構築をほぼ完了した. マクロレベル変形解析では,巨大ひずみ加工プロセス(主としてARB法)によって素材中に0から5.9までの広範囲な相当ひずみが導入される過程を,マクロ有限要素解析により算出し,その結果を実験結果と比較することにより,ひずみ量と微細粒組織形成との関係,とくに,粒界の大角化,粒径変化,結晶方位変化につい定量的検討を行った. 組織形性シミュレーションでは,巨大ひずみ下で生成されるナノ特異組織の形成機構解明を目的とした研究を行った.本年度は、結晶粒径のbimodal分布形成メカニズムに重点をおき、分布形成の主たる原因が粒界の移動度の異方性にあることをphase fieldシミュレーションにより明らかにした.
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