研究概要 |
ケイ素-ケイ素三重結合化合物「ジシリン」はトランス折れ曲がり構造を持ち、二つのπ軌道、二つのπ*軌道は等価ではなく、エネルギー的にも縮退していない。また、ケイ素-ケイ素間のπ軌道準位は著しく高く、一方反結合性π^*軌道は著しく低い。そのため、ジシリンは炭素-炭素三重結合化台物とは異なる多種多様な反応性を示すと考えられる。本研究ではジシリンと炭素-炭素多重結合化台物(アルケン類、アルキン類)との反応性について検討した。 のジシリンを過剰のアルケンと反応させると、[2+2]環化付加反応が容易に進行し、ジシラシクロブテン誘導体を与えることが明らかになった。また、cis-及びtrans-2-ブテンの付加がアルケンの立体を保持して立体特異的に進行することも見出した。理論計算の結果、本反応は1段階の反応ではなく、一つのspケイ素にアルケンが付加する[1+2]環化付加、続く環外二価ケイ素のシラシクロプロパン環への挿入の2段階で進行していると考えられた。また、ジシリンはアルキン類とも容易に反応し、特にアリールアルキンとの反応では形式的[2+2+2]環化付加により1,2ジシラベンゼンを与えることを見出した。本反応も、[1+2]環化付加反応が1段階目の反応であり、続く環外二価ケイ素のシラシクロプロペン環への挿入によるジシラシクロブタジエンの生成、第二のアルキン分子の[2+2]環化付加によるジシラデュワーベンゼン中間体の生成、原子価異性を経て1,2一ジシラベンゼンを与えると推定された。さらに、1,2一ジシラベンゼンについては、X線結晶構造解析で決定した分子構造、各種分光学的データ、理論計算により、十分な芳香族性を有することを明らかにした。
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