研究概要 |
申請者らがビス[ビス(トリメチルシリル)メチル]イソプロピルシリル基(Dsi_2^iPrSi基)を置換基とするケイ素-ケイ素三重結合化合物「ジシリン」の合成、単離に成功し、本申請課題ではその反応性を主として検討してきた。しかしながら、これまでに単離・構造解析されたジシリンはわずか2例のみであり、ジシリンの化学のさらなる展開のためには多種多様な置換基を持つ多くのジシリンの合成研究が必要不可欠である。本研究では,新規なジシリンを合成し,それらの構造と物性,反応性について検討した。 ケイ素-ケイ素三重結合部位を立体的に保護する嵩高い置換基としてビス[ビス(トリメチルシリル)メチル]ネオペンチルシリル基(Dsi_2NpSi基)、ビス[ビス(トリメチルシリル)メチル](トリメチルシリルメチル)シリル基(Dsi_2MsiSi基)を導入した新規な対称置換ジシリン、およびDsi_2^iPrSi基とDsi_2NpSi基を持つ非対称置換ジシリンの合成、単離に新たに成功し、それらの分子構造をX線結晶構造解析で決定した。本研究で新たに合成した対称置換ジシリンのケイ素-ケイ素二重結合部位はいずれもトランス折れ曲がり構造をとり、置換基の立体的嵩高さに起因してSi-Si=Si結合角が大きくなるほど(ケイ素-ケイ素三重結合部位がより直線構造に近づくほど)Si≡Si結合長が短くなることが実験的に示された。 また、非対称置換ジシリンでは、一方のSi-Si≡Si結合角が対応する対称置換ジシリンの結合角より縮小し、もう一方のSi-Si=Si結合角が対応する対称置換ジシリンの結合角より拡大することが分かった。Si-Si≡Si結合角の差に起因して、それぞれの三重結合ケイ素原子の面内π軌道の形成に関与する軌道の混成が異なるため、ケイ素-ケイ素三重結合に分極が生じており、三重結合ケイ素の化学シフト値などの大きく影響することが示された。
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