典型元素では最外殻電子がその原子の特性を特徴づけるという周期表の理解に基づいて、主として第2周期元素で骨格が構成されている有機化合物の構成元素を同族の第3周期以降の高周期元素に置き換えた化合物の化学が展開され、類似性と共に著しい差異の存在も明らかにされてきた。第2周期元素では多重結合化合物は単離可能な安定性を有し、その構築も容易であるが、高周期典型元素間の多重結合化合物は一般に反応活性であり、その合成さえ容易ではなかった。特にアセチレンのsp炭素を高周期14族元素で置き換えた三重結合化合物(あるいはその等価体)を安定な化合物として単離できるようになったのはごく最近であり、周期表で炭素の直下に位置するケイ素の三重結合化合物「ジシリン」を研究代表者らが世界に先駆けて合成、単離することに成功した。 本研究では、ケイ素-ケイ素をはじめとする高周期14族元素同核三重結合のみならず、炭素-ケイ素三重結合などの異核三重結合、さらには炭素-窒素三重結合を有するニトリル化合物のsp炭素、sp窒素をそれぞれ高周期14、15族元素で置換した高周期ヘテロ三重結合などの高周期典型元素の相乗系多重結合の化学を展開すべく、それらの合成法の開拓、特異な構造、反応性の解明を行うことを目的としている。
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