研究課題
窒素固定化酵素ニトロゲナーゼに含まれるP-clusterの構造は、2つの[4Fe-3S]ユニットを6配位硫黄が連結した特異な[8Fe-7S]骨格を特徴としており、最近我々は鉄アミド錯体、チオ尿素、チオール、無機硫黄を用いた自己集積化反応から、この骨格を再現するクラスターAを得ることに成功した。しかしながら、天然のP-cluster骨格は6つのチオラート(システイン)によってタンパク中に保持されているのに対して、合成モデルの[8Fe-7S]骨格には2つの架橋アミド、2つの末端アミドそして2つのチオ尿素配位子が配位している。そこで今年度は[8Fe-7S]骨格に結合したアミドおよびチオ尿素配位子から、システインを模するチオラート配位子への置換反応を実施した。クラスターAに含まれる二種類の配位子、チオ尿素とアミドをチオラートに置換する反応には、それぞれ異なる手法を用いた。チオ尿素はクラスターAの中で最も配位力の弱い配位子であるため、より強い配位子であるチオラートアニオンを作用させて置換を試みた。また、鉄に結合したアミド配位子は塩基として働くため、その置換には酸-塩基型の反応、すなわちチオールをプロトン源として用いてアミドをプロトン化し、アミンを遊離させてチオラートを鉄に配位させる手法を採用した。これらの反応は低温で進行し、嵩高いチオールを用いた反応からは、立体的に混み合っている架橋アミド部位は残したまま末端アミド配位子のみが選択的にチオラートへと置換されたクラスターが、芳香族チオラートとの反応からはジアニオン性のクラスターが生成した。さらに、これらを合成する反応を組み合わせ、三つのチオラートを導入したクラスターの合成にも成功した。一連の化合物は空気、湿気に対して非常に不安定で熱力学的にも準安定な状態にあるため、取り扱いと反応条件の設定には細心の注意が必要であった。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (3件)
Inorg. Chem. 45
ページ: 9914-9925
Int. J. Quant. Chem 106
ページ: 3288-3302
Organometallics. 45
ページ: 3111-3113