ヒドロゲナーゼは水素分子の酸化反応、H_2→H^+ + H^- →2H^+ + 2e^-を可逆に触媒し、エネルギー源として水素を消費する、あるいは余剰のエネルギーを水素分子へと変換して放出する。現在知られるヒドロゲナーゼのうち最も広く存在する[NiFe]型ヒドロゲナーゼの活性部位は、CO/CNを持つ鉄とニッケルが硫黄原子で連結された二核構造からなる。単純に言えばカルボニル/シアノ鉄とニッケルにチオラートが配位した錯体であり、その無機合成も比較的簡単に見えるが、硫黄配位子およびCNは鉄とニッケル両方に親和性が高く、またFe^<2+>とCOの結合は熱的に不安定であるため、その合成は困難を極めていた。本研究課題では、合成前駆体として有用な鉄カルボニル/チオラート錯体および鉄カルボニル/シアニド/チオラート錯体を合成し、ニッケル錯体との反応から[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性部位を高い精度で再現するチオラート架橋鉄-ニッケル二核錯体の合成に成功した。得られた一連の鉄-ニッケル錯体モデルは、ニッケルの配位数を4〜6の間で柔軟に変化させる。これは、酵素活性部位への水素取り込み段階と関連して重要と考えられる。また合成した一連のモデル錯体を用いて、[NiFe]ヒドロゲナーゼ活性中心のニッケルにCOが可逆的に配位して酵素活性を阻害する過程や、ヒドロゲナーゼの特徴的なIRスペクトルを再現することにも成功した。
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