遷移金属錯体と有機典型金属試薬との反応により生成するアート型錯体は、負電荷を有する高配位錯体である。もとの中性錯体と比べると、アート型錯体の分子軌道エネルギー準位は上昇し、その一般的な性質として、様々な反応形態で高い電子供与能を示し得ることが期待される。本研究は、負電荷を有する遷移金属とアート型錯体形成時に生成するカウンターカチオン、及び反応基質元素間の複合的な多元素相乗効果を活用することにより、新しい反応原理に基づく斬新な触媒反応系を創出することを目的とする。その研究計画として、 (1)アート型錯体の中心金属の高い求核性を利用するカップリング反応の開発 (2)アート型錯体に配位したオレフィン類の求核的活性化を鍵とする炭素-炭素結合および炭素-ケイ素結合生成反応の開発 (3)アート型錯体を1電子移動剤として利用するラジカル反応系の開発 の3テーマを重点課題として研究を推進した。これらの触媒反応は、従来法では実現できなかった分子変換手法を提供するものであり、生理活性物質や有機電子材料などの優れた機能を持つ新物質の創製に利用できるものと期待される。
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