オレフィンやジエンなどのπ炭素配位子は、配位形式をπ型からσ型に変化させることが可能であるため、これを有する遷移金属錯体は炭素求核剤との反応により容易に電子を収容し、安定なアート型錯体を与える。この錯体は負電荷を有する遷移金属と典型金属カチオンにより形成される高配位型の複合金属錯体であり、もとの中性錯体と比べると、全ての分子軌道エネルギーが上昇しており、様々な反応形態で電子供与能を示し得ることが期待される。我々は、この特性を利用し、ハロゲン化アルキルやクロロシランなどの電子受容体を反応させ、遷移金属、典型金属、炭素、ケイ素、ハロゲン等の異種の元素が複合的に作用する反応場を構築し、新しい分子変換反応の創出を目的とした。即ち、(i)アート型錯体の中心遷移金属の高い求核性を利用するクロスカップリング反応、(ii)アート型錯体に配位したオレフィン類の求核的活性化を鍵とする新規触媒反応、(iii)アート型錯体を電子移動剤として利用する遷移金属ラジカル触媒系の開発に成功した。
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