ジテルリドとジスチビンがリビングラジカル重合の助触媒として重合制御の向上に有効であったことから、さらに高い反応性が期待されるビスマス化合物にベースした助触媒の開発を行った。ジビスムチンは熱安定性が低く重合反応に利用できないことから、Bi-S結合を持つチオビスムチンに着目した。イオウ元素上に嵩高い置換基を持つチオビスムチン化合物を設計・合成して有機ビスマス化合物を用いるリビングラジカル重合の助触媒として用いたところ、これが高分子量重合体の合成制御を可能にする優れた助触媒であることを明らかにした。スチレンの重合では数平均分子量20万程度までの分子量分布の狭いポリスチレンの合成が(PDI<1.2)、さらに、アクリル酸ブチルの重合では分子量が300万程度の重合体まで狭い分子量分布(PDI<1.2)を保ったまま合成できることを明らかにした。これらの結果は、特殊な条件を用いないリビングラジカル重合系における最も分子量の高い重合体の合成制御例である。さらに、反応機構の解析により、助触媒の作用機構を明らかにした。 リビングラジカル重合のさらに高度な制御を目的とし、開始反応の高次制御についても検討を行った。その結果、光による炭素-テルル結合の直接活性化を用いることで、温和な条件下で高い重合制御を示す光リビングラジカル重合系の開発に成功した。重合制御の鍵は光照射の条件であり、短波長カットオフフィルターや減光フィルターで光量を調整することで、分子量と分子量分布とを高度に制御して重合を行うことができた。さらに、本重合系がO oCといった低温で行えることや、官能基との共存性やモノマーの汎用性が高いなど、合成的に優れた特徴を持つことを明らかにした。
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