研究概要 |
気相に孤立した金クラスターの電子構造と酸素分子との反応性の間には, 明確な相関があることが知られている. 一方, 金クラスターの電子構造は外界との相互作用によって簡単に変化するため, この相関を拠り所として実用触媒を開発することは必ずしも容易ではない. 合理的な設計指針に基づいた触媒開発の第一歩として, ポリビニルピロリドン(PVP)の弱い多点配位による金クラスターの安定化に着目した. その結果, (1)平均粒径1.3nmの金クラスターが, 温和な条件で様々な空気酸化反応に対して高い活性を示すこと, (2)p-ヒドロキシベンジルアルコールの酸化反応を例としてサイズ依存性を検討し, サイズの減少とともに活性が向上することをすでに報告した. 本研究では, Au : PVPのサイズ特異的な触媒活性の起源を明らかにするために, 金クラスターの電子構造がサイズや保護分子に対してどのように変化するかを調べた. その結果, PVPの配位によって微小サイズの金クラスターが負電荷を帯び, このことが酸化反応に対する触媒活性と密接に関係していることを見いだした. この結果は, PVPが単に立体的な保護分子として働くだけでなく, 電子状態を介してクラスターの触媒作用を制御する役割を示した初めての例と言える. 気相金クラスター負イオンと酸素分子の反応をもとに, Au : PVPによる空気酸化反応の触媒機構について考察した.
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