研究概要 |
メソポーラスアルミナ(mesoAl_2O_3)を塩化亜鉛で化学修飾した担体に,メチルトリオキソレニウムを担持した触媒が,エステルをはじめとする種々の官能基をもつオレフィンのメタセシス反応において,従来のMeReO_3/SiO_2-Al_2O_3に比較して高活性であること見いだした.これはレニウム種と亜鉛種,および担体のアルミナの三者が協奏的に機能して高活性メタセシス触媒系を作り出していると考えられるので,この触媒系の構造を明らかにした.均一系分子触媒では,中心金属種の電子状態と,その周りの配位子が作り出すごく近傍の立体的要因が活性を決める.一方,不均一系触媒ではそれらに加えて,反応物や生成物の吸着や細孔内拡散なども活性に大きく影響する.そこでそれらの効果が触媒活性に与える影響を検証した.本メタセシス触媒系では,活性点の反応速度は非常に高く,反応物や生成物の細孔内拡散は遅いため,拡散速度が触媒活性に大きく影響する.MeReO_3/ZnCl_2//mesoAl_2O_3触媒系は他の触媒系よりも初期反応速度は高いが,メタセシス生成物の収率は80%程度で頭打ちになる.ここで原料オレフィンを追加すると再びメタセシス反応が進行するので,触媒活性点自体は失活していないことが分かる.この頭打ちは,長鎖のジエステル生成物の細孔内拡散が極端に遅いことに由来する.物質拡散を高めるためにアルミナ細孔径を3nmから4nmに拡大したところ,細孔内拡散の速度が増し,全体としての触媒性能(TON)は改善した.さらにZnCl_2修飾したmesoAl_2O_3を担体にすることで,不飽和エステルに対するメタセシス反応活性は著しく向上する。アルミナ表面Zn種はRe種と相互作用してメタセシス触媒能を直接的に制御しているばかりでなく,Re種周辺の反応場が間接的に働いていることも考えられる.したがって,MeReO_3/ZnCl_2//γ-Al_2O_3がMeReO_3/γ-Al_2O_3よりも高活性である理由の一つとして,γ-Al_2O_3では反応物および生成物オレフィンを強く吸着し,前述の細孔内拡散が遅くなるのに対し,ZnCl_2//γ-Al_2O_3担体内ではそれが緩和されるためと考えられる.またZnCl_2修飾により表面水酸基が保護され,エステルがカルボキシラート化するのを防ぎ,それによる触媒毒のMeOHの生成や細孔内拡散の阻害を抑制したことも高活性化の要因である.
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