(1) 当研究室で世界最初の例として得られた窒素配位金属硫黄クラスターについて、その反応性の検討を行った。その結果、Ir_3RuS_4キュバン型骨格に配位した窒素分子の変換は達成されなかったものの、プロトンと還元剤の共存下での水素発生を触媒することが明らかになった。すなわち、ニトロゲナーゼモデル反応は見いだせなかったが、ヒドロゲナーゼモデルとしての機能が判明した。なお、本クラスターについては、窒素分子の配位サイトをルテニウムからモリブデンやタングステンとすることで窒素活性化能が大きく改善されることがDFT計算から示唆された。 (2) 最近得られたIr_4S_2ヒドリドクラスターは、アミン共存下で水素ガスと反応し、水素分子をプロトンとヒドリドへと変換することが判明した。一方、ここに新たに生成したヒドリドクラスターはプロトンと反応して水素ガスを発生する。水素分子の常温常圧下での不均一な切断や、プロトンの水素ガスへの変換は今後の社会での水素の高度利用に向けて、重要な知見である。 (3) 当研究室で開発された新規なテトラホスフィンを補助配位子とするモリブデン錯体上において、末端アセチレンがカルビン配位子へと変換されること、そしてさらに配位力ルビンがイソニトリルとの錯体上でのカップリングにより置換アセチレンへと変換できることを見いだした。 (4) ピラゾリルポレート配位子をもつロジウムの単核ジチオラート錯体においては、水素分子の温和な条件下での活性化と切断が進行し、不飽和結合の水素化、とりわけC=N結合において高い水素化反応活性が発現することが明らかとなった。
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