金属-金属結合を構造モチーフとしない非クラスター型多核有機金属錯体について多金属種による触媒効果発現原理の解明とともに新触媒反応系開発に焦点をあてて、本年度は以下の二つのテーマについて研究を実施した。 太陽光エネルギーを駆動力とする触媒反応の開発を目標として、二核錯体[(bipy)_2 Ru(μ-L)Pd(Me)(NCMe)]^3+の一方の金属中心(Ru)で捕集された光エネルギーを架橋配位子を通じて触媒機能発現をするもう一方の金属部分(Pd)に伝達させて、そこで触媒反応を駆動させることを計画した。架橋配位子(L)として共役系ビピリミジンに加えて、σ結合のみでRuユニットに結合した配位子も採用し、架橋配位様式及び各配位様式及び各配位子上の置換基効果について調査した結果、Ruから架橋配位子へのMLCT遷移が優先的に起こること、光吸収ユニットと反応サイト間での強い電子的相互作用、励起寿命の伸長等の因子が、効率的なPdへのエネルギー移動を誘起して、反応効率を向上させることを明らかにした。 金属中心の共同作用を利用する基質活性化に向けて、中心部分にピラゾレートを含む二核化PNNP配位子に続いて金属間距離が短くなる系を分子設計して、本年度はフタラジン骨格を含むPNNP^Ph配位子を中心に研究を進め、以下の結論を得た。(1)PNNP系と比べて金属間距離が短くなっており、場合によっては金属-金属結合が形成される。(2)中性配位子であるためPNNP系とは電荷が異なってカチオン性が高まる結果、逆供与結合が弱まって、配位子解離が促進され、後続反応が進行する。また(3)高酸化状態が安定化されるために酸化的付加反応が起こる。 来年度以降は二核錯体を用いて触媒反応への展開をはかると共に、電子構造解析を行って均一系・不均一系触媒を含む多核金属系における金属の役割分担の原理の解明を図る。
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