研究概要 |
本研究の目的は、過酸化水素を酸素源とする酸素原子添加酵素シトクロムP450BSβ(P450BSβ)の機能改変を化学的に行うことにより、これまで困難とされてきた酸化反応を実現することである。前年(17年)度の予備実験では、P450BSβのヘム空孔内に短鎖の脂肪酸(疑似基質)を取り込ませて固定し、さらに基質を導入することによって、非天然基質であるチオアニソールのエナンチオ選択的なスルフォニル化に成功していたが、18年度の研究では、疑似基質の精密な分子設計を進め、高度な酸化反応であるエチルベンゼンのアルキル鎖の酸素添加飯能に成功した。その反応活性は、同種の反応を触媒する天然酵素と同程度であり、P450BSβが、疑似基質との複合化によって、高活性な人工酵素へと形質転換できることを示した本研究は、Angew.Chem.Int.Ed.のVIPに選ばれ、2007年5月掲載予定である。 ここで、開発する手法は、今後好熱菌由来の耐熱性ヘムタンパク質に応用し、実用的な人工酵素を目指しているが、18年度の研究では、その一環として、好熱菌Thermus thermophirus由来のチトクロムc552(Cytc552)を用いたタンパク質の機能改変に取り組んだ。その結果、70℃の高温で持続的に機能する人工酸化酵素の創出に成功し、その反応過程で乗じる不安定中間体の長寿命化に成功した。この研究の成果は、18年度に学術雑誌で発表した(Ichikawa Y, Nakajima H, Watanabe Y, ChemBio Chem) 18年度の研究では、他にも補助因子の機能を更に拡張するための方策として、活性中心の人工錯体化についても研究を進めており、その結果は学術雑誌2誌に掲載されている。(Ueno T, Nakajima H, Watanabe Y etal., Proc. Nat. Acad. Sci. UA; J. Organomet. Chem.)
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