ヘムタンパク質のヘムを取り除いた後の空孔内における有機金属化合物の挿入と配向制御を目指し、ヘムとは全く異なる分子構造を有するロジウムPhebox錯体および銅アミノ酸錯体とミオグロビンとの複合体形成を行った。得られた複合体はロジウムPhebox錯体、銅アミノ酸錯体ともに極めて安定であり、いずれの結晶構造でもタンパク質部分の構造に大きな変化はみられなかった。一方、空孔内での各錯体の位置と配向は、ヘムとは大きく異なっていた。ロジウムPhebox錯体の場合、ロジウムに配位するアミノ酸残基はヘムと同じHis93であったが、その配向はヘムに対して直立した状態であった。また銅アミノ酸錯体では、銅イオンに配位するアミノ酸残基もHis93から、その上方に位置するHis64に代わっており、錯体は、ヘム空孔内のヘムとは全く異なる位置に固定されていた。各錯体の配位子と空孔内部のアミノ酸残基側鎖との相互作用を詳しく検討した結果、このようなヘムとは全く異なる位置と配向の安定化は、配位子の構造にかかわらず、配位子部分とアミノ酸残基側鎖間の疎水性相互作用が大きく寄与することが分かった。ここで得られた結果は、タンパク質の空孔が天然補因子以外の金属錯体であっても柔軟に取り込み、タンパク質空孔内のアミノ酸残基側鎖と金属錯体配位子間での疎水性相互作用を形成することができれば安定な複合体を形成可能であることを示しており、タンパク質-金属錯体の安定化に重要であるかを示し、今後、求める機能を有する金属錯体を必要とする反応空間を有するタンパク質へ挿入し、安定な複合体を形成するための知見になると考える。なお、銅アミノ酸錯体とミオグロビン複合体の研究については、アメリカ化学会Inorganic Chemistry誌の掲載され、その表紙絵に採用された。
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