研究概要 |
一般にタンパク質は、熱的安定性、耐久性が低く、基礎的な研究で生み出した人工機能化タンパク質をそのまま実際の反応へ応用することは容易ではない。申請者は、この問題に対するアプローチとして、熱的安定性と耐久性に優れた好熱菌由来のタンパク質を基盤タンパク質に利用し、機能化タンパク質の応用を志向する研究を行っている。課題研究の一環として、18年度より開始したこの研究は、19年度に70℃で最大活性を発現する耐熱性酸化酵素(ペルオキシダーゼ)の創出として、成果を出すことができた[1]。ただし、この段階では、活性の耐久性に問題があったため(凡そ3分でほぼ失活)、その後さらに研究を進め、21年度の研究では、人工酵素の耐久性向上を実現しつつある(70℃において、1時間の触媒活性を保持)[2]。その過程で、好熱菌由来タンパク質を利用する人工酵素では、触媒の失活は、タンパク質の変性よりもむしろ活性点の分解に原因があり、分解抑制の機構を機能化の一部として組み込むことの重要性が明らかになった。人工的に機能を賦与したタンパク質では、反応機構の解析が容易であり、機構に基づく失活過程の同定と抑制のための分子デザインが行いやすい。これは、人工酵素の特徴である。本年度の研究成果は、明確な分子設計に基づくタンパク質の機能化に好熱菌由来タンパク質利用することが、応用を志向する人工酵素の創出に有効であることを示す端的な事例であると言える。 [1] H.Nakajima et al, ChemBioChem 2008, 9, 2954-2957. [2] H.Nakajima et al., Dalton Trans. 2010, 39, 3105-3114.
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