研究課題
カルコゲン配位子で架橋された多核金属クラスターは、様々な酵素の活性中心に存在し、興味深い反応を司っている。今年度は、水素を活性化する[NiFe]ヒドロゲナーゼの化学に注目し、その架橋カルコゲニドと複核金属ユニットが機能発現にどの様な役割を果たしているかを明らかにする目的で、比較的安定なカルコゲン架橋ゲルマニウムールテニウムニ核錯体を設計、合成した。その結果、ゲルマニウムとルテニウムがスルフィドとヒドロキシル基で架橋された錯体が常温常圧の水素と反応すること、またこの反応が可逆であり、水を水素に定量的に変換することができることを見いだした。本反応は架橋カルコゲンを利用した新しい水素分子活性化反応である。架橋ヒドロキシル基を架橋ヒドロチオ基に変えた錯体についても水素との反応を検討したところ、ルテニウム上に電子供与性の高いトリエチルホスフィンを導入した錯体を用いると水素分子が活性化され、硫化水素の発生をともなってヒドリド架橋錯体へと変換されることがわかった。速度論的検討から、過剰の水素存在下で反応は擬一次であり、その速度定数はヒドロキシ架橋錯体に比べて非常に小さかったが、その逆反応である硫化水素の活性化による水素発生は、水との反応に比べて速かった。架橋ヒドロキシ錯体と架橋ヒドロチオ錯体は、それぞれ水、硫化水素を加えることによって相互変換が可能であったことから、架橋部を水と硫化水素の量によって自在に変化させることにより、水素の消費と合成が制御可能である。また、ギ酸の活性化反応においてもいくつかの興味深い知見が得られた。オキソ/スルフィド架橋ゲルマニウムールテニウム錯体は、ギ酸を二酸化炭素+プロトン+ヒドリドへと変換するのに対し、オキソ架橋部をプロトン化したヒドロキシ架橋類縁体は、ギ酸を一酸化炭素+プロトン+ヒドロキシアニオンへと変換した。ギ酸を中間体とする両変換反応は、水性ガスシフト反応との関速からも興味深い。
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