炭素炭素結合形成に関して、2種類の新しい手法を開発した 1 シリルエーテルとケイ素求核種の触媒的カップリング反応 シリルエーテルはアルコールの保護体として有機合成に広く用いられる化学種である。通常反応性が低く、脱保護および官能基変換させた後に、反応に用いる。我々は、インジウム触媒を用いることで、このような前処理や官能基変換を行うことなく、シリルエーテルを直接反応剤として用いる手法の開発に成功した。アリルシランおよびアルキニルシランをInCl3/ヨウ素触媒において、アルキルシリルエーテルと反応させると、効率よく炭素炭素結合形成反応が進行し、直接的にカップリング生成物が得られた。他の通常反応性が高いと認識されている官能基よりも優先的にこのカップリングが進行し、合成化学的にきわめて有効に利用できる反応系として確立された。 2 有機塩化物とシリルエノラートの触媒的カップリング反応 アルキルクロリドとシリルエノラートの触媒的カップリング反応は、これまでほとんど達成されていない反応形式であった。これは、アルキルクロリドを効率よく活性化する触媒が無く、強いルイス酸の等モル反応に頼らざるを得なかった背景がある。今回我々は、臭化インジウムを用いることでこの問題点を克服し、多様な基質に適応可能なカップリング反応系を確立した。また、アルデヒド由来のシリルエノラートを本手法に用いることができることが判明し、タンデム型の多段階炭素炭素結合形成を一気にワンポットで行うことに成功した。触媒、試薬、エネルギー等の大幅なコスト改善を行うことができた。 以上の研究は、活性プロトン耐性触媒の検討過程で発見されたものである。活性プロトン耐性触媒は、特異な官能基活性化能力を有しており、これまで知られている通常のルイス酸触媒とは全く異なつた官能基を選択的に活性化できる点が、今回の反応達成要因である。
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