研究概要 |
1)光増感剤とビタミンB_<12>誘導体の協奏機能による触媒系の構築 ビタミンB_<12>のCo(I)種は超求核剤として有機ハロゲン化物と反応し、ハロゲンイオンとCo-C結合を形成する。Co(I)種の発生法として、従来水素化ホウ素ナトリウムのような化学還元剤や電解還元が用いられてきたが、必ずしもクリーンな手法とは言えない。そこで、光反応を利用したCo(I)種の生成法を考案した。この反応では、光増感剤として良く用いられるルテニウム(II)トリスビピリジン錯体を用い、光駆動型電子移動反応を利用した触媒サイクルの構築を行った。Ru(II)トリスビピリジン錯体は可視光照射により励起され、犠牲還元剤(トリエタノールアミンなど)共存下では還元的消光を受け、高い還元力を有するRu(I)錯体を与える(-1.35V vs.Ag/AgCl)。従って、Ru錯体の還元力を利用すればB_<12>錯体(E_<l/2>(Co^<II>/Co^I)=-0.6V vs.Ag/AgCl)を触媒活性なCo(I)種へと還元することが出来る。実際に光増感剤によるCo(II)錯体の還元は、ESRによる反応追跡により確認できた。ビタミンB_<12>錯体を触媒として用い、エタノール中Ru光増感剤及び犠牲還元剤存在下で、環境汚染物質であるDDT(有機塩素化合物)に可視光照射したところ、3時間でほとんどのDDTが消失し、主生成物としてDDD(塩素が1つ脱離した化合物)が得られた。暗所やビタミンB_<12>錯体不在の場合では反応はほとんど進行せず、光駆動型電子移動反応により生成するCo(I)種が活性種となり、反応が進行していると推察できる。 2)人血清アルブミン(HSA)とビタミンB_<12>誘導体の協奏機能による人工酵素系の構築 ヒト血清アルブミン(HSA)とビタミンB_<12>誘導体との組み合わせにより、新規ビタミンB_<12>人工酵素系を構築できた。HSA中に取り込まれたビタミンB_<12>誘導体は、バルク水相から隔離され非極性なミクロ環境に存在しており、分子運動が抑制された特殊環境にあることが明らかになった。本ハイブリッド触媒を用いることにより、ビタミンB_<12>酵素に特徴的な官能基の1,2-転位反応が進行する。また、本人工酵素と上記のRu錯体のような光増感剤と組み合わせることにより、可視光照射により反応が進行する触媒システムを構築出来た。本触媒を用いることにより、水中で環境汚染物質であるDDT(有機塩素化合物)がHSA中に濃縮され、DDTの脱ハロゲン化反応が触媒的に進行した。
|