触媒設計のコンセプトとして、金属酵素の活性部位の構造から重要な金属錯体部位を取り出し、単純化した金属錯体を分子設計し、ナノ空間材料を組み合わせてハイブリッド触媒を構築した。本年度は以下のようなバイオインスパイアード触媒によるDDTの脱ハロゲン化反応に成功した。 1)光増感剤とビタミンB_<12>誘導体の協奏機能による人工酵素系の構築 ビタミンB_<12>錯体を触媒として用い、エタノール中Ru光増感剤及び犠牲還元剤存在下で、環境汚染物質であるDDT(有機塩素化合物)に可視光照射したところ、3時間でほとんどのDDTが消失し、主生成物としてDDD(塩素が1つ脱離した化合物)が得られた。本触媒システムは、人血清アルブミン(HSA)をタンパクモデルとする人工酵素系にも適用できた。HSAをアポタンパクモデルとして用いることにより、水中でのDDTの分解反応が可能となった。水中で疎水的なDDTはHSA中に濃縮され、添加したRu錯体の光増感反応により活性化されたCo(I)種の疎水性ビタミンB_<12>と反応し、脱ハロゲン化生成物が生じた。触媒回転率は10回程度であり高効率とは言えないが、水中での触媒サイクルに成功した。 2)二酸化チタンとビタミンB_<12>誘導体の協奏機能によるハイブリッド触媒の構築 ビタミンB_<12>ハイブリッド酸化チタンをエタノールに懸濁し、紫外線照射すると、Co(I)種の生成を示す暗緑色へと変化した。基質としてDDT(有機塩素化合物)を加え、光照射しながら反応させると、脱塩素化体が生じた。本ハイブリッド触媒は、紫外線照射によりDDTが効率良く分解でき、グリーンケミストリーの観点からも興味深い反応システムである。
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