研究概要 |
平成18年度はおもに希土類ポリヒドリド錯体と一酸化炭素との反応、およびポリヒドリドカチオン錯体の重合反応について検討した。 希土類ポリヒドリドクラスターと一酸化炭素との反応 ポリヒドリド錯体[(C_5Me_4SiMe_3)Y(μ-H)_2]_4(THF)は一酸化炭素と温和な条件化で反応して、短時間で混合物をほとんど生じずにエチレンを生成することを明らかにした。エチレンは、ポリエチレンやポリ塩化ビニルのような化学製品の前駆物質として広い用途をもつため、このプロセスの波及効果は大きいものと思われる。また反応機構に関する知見を得るため、低温下で一酸化炭素との反応を追跡したところ、いくつかの鍵となる中間体を検出した。以上の結果は、一酸化炭素(CO)と水素(H_2)を反応させて、液化炭化水素(人造石油)や酸素を含むその誘導体から成る混合物を生成する反応(フィッシャー・トロプシュ反応)の機構解明にも寄与するものと考えられる。 ポリヒドリドカチオン錯体の重合反応 ポリヒドリド錯体[(C_5Me_4SiMe_3)Y(μ-H)_2]_4(THF)と[Ph_3C][B(C_6F_5)_4]との反応によりカチオン性ヒドリド錯体[(C_5Me_4SiMe_3)_4Y_4(μ-H)_7(THF)][B(C_6F_5)_4]の合成および構造解析に成功した。これまで構造が明らかにされたカチオン性希土類ヒドリド錯体の例はなく今回が初めてである。このカチオン錯体は1,3-シクロヘキサジエンの位置選択的重合反応の触媒として作用し、選択的にシス1,4-ポリシクロヘキセンを与えることを明らかにした。これとは対照的に中性のポリヒドリド錯体と1,3-シクロヘキサジエンとの反応では重合活性は見られず、一分子のみ基質が錯体中に取り込まれるにとどまった。今回、このカチオン錯体を用いることによって1,3-シクロヘキサジエンのみならずスチレンに対しても立体選択的な重合反応が進行することが明らかとなった。
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