研究概要 |
単核ヒドリド錯体は実験および理論計算の両面から詳細に研究されているが、ヒドリドクラスターは全く合成例がない。Ln_3H_9やLn_4H_<12>などのヒドリドクラスターについて理論計算を行った結果、Ln_3H_9は環状の5配位構造がもっとも安定であり、希土類元素の5d軌道とヒドリドの1s軌道の寄与により芳香族性を有することが示唆された。また、Ln_4H_<12>は四面体構造がもっとも安定であった。Ln_3H_9やLn_4H_<12>は単核のLnH_3と比べ103-204Kcal/mol安定であり、これらの複核ヒドリドクラスターが存在しうることを予測される。また、金属ヒドリド結合へのアルケン挿入反応は,水素化反応や重合反応において重要な鍵反応であり、この反応機構に関する単核錯体の計算化学的研究は数多く行われているが,複数の金属に架橋したヒドリドを有する多核錯体に関してはほとんど行われていなかった。イットリウム錯体[(Me_3SiC_5Me_4)_4Y_4H_8]におけるY-H結合へのエチレン挿入反応に対する理論研究を行ったところ、架橋様式が異なる1つのμ4-H、1つのμ3-H、6つのμ2-Hの内、μ4-Hは4核構造の中心に位置しているためエチレン挿入反応には関与しない。ONIOM(B3LYP:HF)計算の結果、Y-(μ3-H)よりもY-(μ2-H)へのアルケン挿入の方が速度論的に有利であり、μ2-架橋エチル基が生成することが明らかになった。 一方、希土類金属ポリヒドリド錯体とモリブデンヒドリド錯体を反応させることにより,d-f混合金属ヒドリド錯体の合成に成功した。この錯体は、水素と可逆的に反応することが判明し、現在、実験および計算の両面からその詳細な反応機構について検討している。
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