研究概要 |
光励起による反応制御の機構解明を目的とし、強レーザー場によって誘起される初期振動ダイナミクスを時間依存断熱状態法に基づいた第一原理分子動力学計算により求めた。これにより、C_<60>ではパルス列を使うことによって特定の振動モードを選択的に励起できることを示した。振動励起後から解離に至る長時間ダイナミクスには、精度を保ちつつも計算コストを大幅に軽減する密度汎関数緊密結合法を用いた。初期に励起された振動モードのエネルギーは数ps程度で他のモードに流入し、その後、ピコ秒以下の時間スケールでエネルギー交換をしていることが分かった。解離につながるStone-Wales転位を起こすC=C結合周りの6つの炭素原子の運動エネルギーの時間変化を調べたところ、100fs程度の時間幅で約7eV程度の増減を繰り返している。この増減が現れる時間間隔は500fs以下で、増加した運動エネルギーが極短時間でStone-Wales転位に使われることを明らかにした。 また、多電子系ダイナミクスを評価するために、多配置波動関数が従う運動方程式を導出した。H_2やN_2分子に適用し、その近赤外パルスによるイオン化において、励起状態が大きな役割を演じていることを明らかにした。さらに、多配置波動関数に対して、瞬間的な自然軌道φ_j(t)の軌道エネルギーε_j(t)と「レーザー電場から直接得られるエネルギーS_j(t)を定義した。それらを用いて,レーザー場と相互作用するH_2の電子波動関数を「電子相関エネルギー」と「レーザー電場からのエネルギー供給」の観点から解析した。外部レーザーに対する応答として、断熱的および非断熱的な応答が存在することを数値計算を通して確認し、後者の中でも電子間エネルギー交換によってε_j(t)>S_j(t)を満たす「アクセプタ軌道」に分類される軌道が強レーザー場中での分子のイオン化において重要であることを示した。
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