研究概要 |
遷移金属元素を含む複合電子系について、CCSD(T)法やMP4(SDTQ)法などの高精度計算を行うためにはアルゴリズムを改良するほかに、計算コストを増大させる置換基の電子的効果を有効ポテンシャルに置き換えることにより計算コストを低減させる方法がある。本研究では遷移金属錯体で多用されているフォスフィンの置換基を有効ポテンシャルで置き換えることを計画し、有効ポテンシャルの表式を検討シ、パラメータを求めた。得られた有効ポテンシャルを用いて、ニッケル(0)錯体へのC-CN結合の酸化的付加反応、ハロゲン架橋2核ロジウム(I)錯体へのN2,エチレンなのどの配位安定化エネルギーを算出したところ、通常のDFT法を用いた場合は配位安定化エネルギーの誤差が大きいにもかかわらず、有効ポデンシャルを用いたCCSD(T)法では実験値に近い結果が得られた。 ポルフィリンのN原子をSやP原子に置き換えたかリックスフィリン錯体が最近合成され、電子状態と反応性が興味集めている。本研究ではS,P置換カリックスフィリンのパラジウム(0)錯体の特徴的な電子状態と反応性をDFT法で明らかにした。このS,P置換カリックスフィリンは中性と-2アニオン性の2つの原子価異性構造を取りえるが、パラジウム金属が挿入された場合はパラジウムは2+、カリックスフィリンは-2アニオン性の構造となる。それにもかかわらず、フェニルブロマイドの酸化的付加が進行する点が興味深い。この過程を詳細に検討したところ、フェニルブロマイドが接近するとパラジムムが配位面から浮かび上がり、パラジウムが中性に、カリックスフィリンが中性になり、そのため酸化的付加が容易に進行する描像が示された。このように遷移金属を含む柔軟な電子状態を持つ錯体は応用的にも、分子科学的にも興味深いことが明らかとなった。
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