研究概要 |
水は広い温度圧力領域において数多くの結晶多形を有し、それは水分子の持つ水素結合能に深く依存していることは、その四面体構造から明白である。この構造、数10GPa以上のプロトン位置の対称化や高温高圧における超イオン伝導体となる領域、すなわちもはや水分子が実態として存在しない温度圧力範囲を除いて、維持されている。水分子は水素結合部位を除けば、基本的には球形分子であり、プラスチック相が出現することも当然期待される。現在までのところ実験的には発見されていないが、これは低圧においては四面体配置のために密度が低く、配向に関して異方性が極めて大きいためであると考えられる。2GPa、400K以上の高温高圧での氷VIIの融解曲線の測定は現在でも非常に困難であり、その値には大きなバラツキがある。また、これまでに自由エネルギー計算から推測された種々の氷VIIとVIIIの境界は極めて不自然であることから、これらについても併せて詳細な検討を要する。したがって、今回は高温高圧の氷VIIの融解について、主として分子動力学計算機シミュレーション(MD)と自由エネルギー計算により調べた。MDシミュレーションを種々の温度、圧力また分子間相互作用に対して行った。また、長距離分子間相互作用は、Ewaldの方法で計算もしくはスムーズにカットした。シミュレーションは氷VIIを初期構造として選び、圧力を固定し低温から開始して各温度において2-10ns継続した。これを10Kづつ昇温し手繰り返し、融解した後同様に降温した。分子間相互作用としては, TIP4P, TIP5P, SCP/Eを選び、何れに対しても長時間の計算を行った。また、分子数Nは432-3456とし、いずれの場合にもほぼ同様の結果を得た。最大圧力は12GPa、また温度は400-900Kの範囲した。圧力が20GPaを超えるとOH結合長に変化がみられるようになることが知られているが、今回はそれ以下であり、上記の剛体回転子モデルは正当化される。
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