研究概要 |
分子シミュレーションは未知の結晶構造を予測し、相転移現象を調べ、相図を作成するための非常に強力な手法である。ここでは、水が制約空間を形成する場合のクラスレートを取り上げる。クラスレートハイドレートは水分子が水素結合をしたネットワーク構造のなかに存在する0.5-0.6nmの大きさの空洞に、炭化水素、二酸化炭素などがゲスト分子として取り込まれた非化学量論的な化合物の結晶である。クラスレートハイドレートは、ガスの貯蔵、天然ガス資源、海水の淡水化など多様な用途が期待されている。この工業的な利用には、その生成の平衡と速度に関する様々な基礎研究を経て始めて実用段階に達することができる。生成解離の機構を解明して理論的な平衡の予測と安定性に寄与する物理量を評価できれば、実験に対して指針を与える点でも、また経済的な観点からも社会的貢献度は大きいと考えられる。本研究では、水素クラスレートハイドレートの生成・解離の平衡を、実験に頼らず第一原理から予測し、また低圧における水素貯蔵を可能にするためのプロモーター分子(ここではアセトン)の役割とその効率のよい混合組成について、自由エネルギー計算に基づいて予測する方法を確立することを目的とした。アセトンを包接したクラスレートへの水素包接量を調べるため、水素についてのGCMCシミュレーションを行った。温度、圧力、水素の化学ポテンシャルを固定し、体積、水素の粒子数を変数とするシミュレーションである。ホストである水分子、包接されているアセトンの粒子数は固定した。初期配置として、クラスレートIIの配置の水分子1088個と大ケージの中心にアセトン分子を配置した。大ケージの数に対して0, 1/2, 3/4, 7/8, 15/16, 31/32, 63/64, 1の割合のアセトン分子数について、それぞれGC/NPT MCシミュレーションを行った。アセトンが一定量占有した条件下での、水素クラスレートの種々の圧力における熱力学的安定性と占有率を、理論とシミュレーションを組み合わせることにより、容易に計算することが可能であることを示すことができた。
|