研究概要 |
多くの有機化学反応や生体内反応は溶液中で進行するにもかかわらず,溶媒が分子としてどのように反応に関与しているのか,明らかになっていないことが多い。反応を予測あるいは制御し,さらにはその物質や生体高分子の機能を制御するためには,溶媒分子の関与を,定性的だけでなく定量的に,また内部エネルギーだけでなく自由エネルギーの観点から明らかにする必要がある。本研究は,有機化学反応や生体内反応の反応予測や反応制御をおこない,物質や生体分子の機能制御をおこなうための方法論を確立することをめざしている。 プロトン移動は多くの溶液内反応や生体内反応において重要な役割を果たしている。プロトン化した水クラスターがどのような構造をとりうるのか,どのような安定性を持つのか,は自明ではない。そこで、それらを理論的に明らかにするために,ルート有向グラフの概念を用いることによって,トポロジー的に可能な水素結合パターンをすべて得た。また,安定構造として存在する条件を考慮に入れた制限付ルート有向グラフの概念を新しく提案し,それに基づいて,五量体までのプロトン化水クラスターの安定構造のすべてを,非経験的分子軌道法を用いて求めた。 求核置換反応であるRX+X^-(R=alkyl, X=halogen)を対象とし、S_N1反応について,溶媒和自由ニネルギーを求めることによって溶液中における反応経路を得る手法を確立した。溶媒として100個の水分子をあらわに計算に入れこみ,反応の進行に伴う自由エネルギー変化を求めることによって,溶媒の反応経路に与える影響を明らかにした。
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