研究概要 |
多くの有機化学反応や生体内反応においては, 反応の進行に多くの因子が関与している。反応を予測あるいは制御し, さらにはその物質や生体高分子の機能を制御するためには, 活性中心にある分子に, そのまわりの因子がどのように関与しているのかについて明らかにする必要がある。本研究は, 有機化学反応や生体内反応の反応予測や反応制御をおこない, 物質や生体分子の機能制御をおこなうための方法論を確立することをめざしている。 ハイブリッド分子動力学法であるONIOM分子動力学法によるシミュレーションを, 体内で, 抗癌剤活性化に重要な役割を果たす酵素, シトシンデアミナーゼに応用した。ONIOM-分子動力学法を用いることにより, 活性サイトの環境の効果を, 熱運動を考慮に入れて解析することができる。ONIOM-分子動力学シミュレーションの結果, 活性サイトと結合した基質のウラシルは, サンドイッチ状に挟まれたアミノ酸残基, His62およびIle33から熱運動による立体構造の接触によって強い摂動を受け, 構造およびエネルギーの揺らぎが増大していることが見出された。これは, 環境の動的効果とよぶべきものである。 ミツバチのローヤルゼリーの中に含まれる脂肪酸が, 自律神経失調, 更年期障害, 骨粗鬆症などに有効であることはよく知られている。ホルモンエストロゲンの薬理効果と同様のローヤルゼリーのこれらの薬理効果は, 人体の中で, ローヤルゼリーの脂肪酸がエストロゲン受容体と相互作用するため現れると考えられる。しかし, ローヤルゼリーの中に含まれる脂肪酸については, 含有率が大きい幾つかの構造が実験的に決定されているものの, エストロゲン受容体との相互作用については, よく分かっていない。本研究では, 人間のエストロゲン受容体βとローヤルゼリーに含まれる脂肪酸の相互作用について, ONIOM法, 分子動力学法を用い, 理論的に解析を行った。
|