研究概要 |
ビタミンB12は生体内に取り込まれると、アデノシルコバラミンに変換され、十数種の酵素の補酵素として働く事が知られている。ジオールデヒドラターゼは、1,2-プロパンジオール等の主に炭素数4以下のvic-ジオールの脱水反応を触媒する酵素である。本酵素による反応は、アデノシルコバラミン中のCo-C結合がホモリティックに開裂することにより始まる。全原子(約13,500原子)を含むモデルを構築し、QM/MM法を用いてこの反応の理論的解析を行った。本研究では活性部位アミノ酸残基の寄与を推定するため、変異体モデルを構築し、それらの触媒機能を考察した。QM/MM計算にはONIOM法を用いた。QM領域としてにカリウムイオン、基質、アデノシルラジカルのリボース部位、及び6つの周辺アミノ酸残基を選択した。QM計算にはB3LYP法を、基底関数には6-31G*を用いた。MM計算にはAMBER力場を使用した。変異体His143Alaおよび、Glu170を置換したGlu170Gln、Glu170Ala、Glu170Ala/Glu221Alaの合計四つの変異体についてQM/MM計算によりその触媒機構を明らかにした。これらの変異体についても、野生型と同様に基質から1,1-diol radica1への転換は水素引き抜きと水酸基転移の二段階で進行する。Glu170Gln変異体での水酸基転移の活性化エネルギーは17.4kca/molとなり、野生型での活性化エネルギー13.6kcal/molに比べて、大きく上昇することが判明した。実験的にもこの変異体は野生型の1%以下の活性しかないことが知られており、この高い活性障壁が反応の進行を妨げていると予想される。このように量子化学計算によるミューテーションは信頼性のある結果を与えることが分かった。この手法を用いて変位型酵素の活性について研究する予定である。
|