気相遷移金属原子と簡単な分子の反応ダイナミクスを解明するために、交差分子線条件で生成物の角度・速度分布を観測することを目指し、装置の改良を行った。これまで、レーザー誘起蛍光法で生成物の内部状態分布を観測し、それによって反応機構を類推していたが、角度・速度分布を測定すると、直接反応機構が明らかになる。 生成物をレーザーイオン化し、イオンを飛行時間形質量分析計(TOF)で検出するが、TOFの加速電極に速度マッピング条件を適用し、イオンを2次元検出器(MCP-蛍光スクリーン検出器-CCDカメラ)で検出し、交差分子線の散乱平面上の速度成分をそのまま観測した。21年度からこの計画を実施し、予算繰り越しをした22年度には、リップルの少ない高圧電源によって、TOF加速電極へ電圧を供給し、ゆがみの少ない2次元画像を検出することができた。具体的には、既に我々がLIFや化学発光法で観測したY+O_2→YO+O反応について、YOの角度・速度分布を測定した。その結果、YOは反応系の重心に対して等方的な角度分布を持っていること、速度分布は生成物の可能な量子状態に等しい確率でエネルギーが分配されるとしたときに期待されるものと一致することが明らかになった。これは、過去の我々のLIFや化学発光法による結果と辻褄が合うもので、反応が寿命の長い中間体を経て進んでいることを強く示唆している。
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