相対論的効果を含めた電子状態計算としてRECP法が広く用いられているが、原子軌道は内殻領域で節を持たないため、特にvelocity gaugeを用いた遷移モーメントの計算方法において大きな誤差を生じる。一方、内殻領域の正しい原子軌道の振る舞いは良く分かっているので、その領域の影響を遷移モーメントの計算に含めて、RECP法の誤差を除くことは可能である。本研究の結果、1. 単純な2原子分子やランタノイド系で、その方法の定量性を調べた結果、期待したほどに精度は出なかった。2. Large core ECP法やMCP法を用いて内殻領域に節を持たせても、velocity gaugeとlength gaugeの振動子強度は数倍以上ずれた。3. ハミルトニアンにスピン軌道(SO)相互作用項を含めると、velocity gaugeでは、余分な補正項が必要になる。その項の影響は、比較的軽い原子では重要であるが、重原子系ではほぼ無視できる。4. 開発した手法をランタノイド三ハロゲン化物(LnX_3)のff遷移の振動子強度に応用した。全電子計算、RECP、MCP法の数値の一致度は、velocity gaugeに比べlength gaugeが良かった。5. LnX_3のff遷移が許容となる理由として、(1) 弱い電子遷移は、X3が作る配位子場の影響で、Lnの4fに5dが混入することによる。(2) 従来hyper sensitive transitionと呼ばれてきた強い電子遷移は、4f間の遷移に配位子X_3部分の励起の混入により、X_3部分の分極型励起からのintensity borrowingと解釈できる。(3) 各振動モードが振動子強度に及ぼす影響を考慮した結果、10%程度値を変化させることが分かった。
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