研究概要 |
実験装置の性能向上による超高速過程の観測が可能となった現在にあっては,非平衡系への応用研究が可能な理論的手法が求められている。本研究では電子状態理論と分子動力学法を組み合わせたab initio molecular dynamics (AIMD)法を方法論的に発展させ,応用可能な新しい研究対象を提供することを目指している。AIMD法は従来の分動力学(MD)法で扱うことが困難であった結合の生成や開裂を含む化学反応を追跡することが可能である。しかし,AIMD法では数百原子,ピコ秒のシミュレーションが限界である。したがって,時間スケールに拡がりを持つ化学現象は未だに充分追跡できない。本研究では,この問題を解決するために,まずAIMD計算のボトルネックである電子状態理論計算の高速化を検討した。同時に,電子状態理論計算の大規模化および高精度化の問題についても理論開発を行った。本研究のもう一つの主題である原子核の量子効果を考慮したダイナミックスについては,我々が長年取り組んできたBorn-Oppenheimer (BO)近似に基づかず原子核と電子の波動関数を同時に求めるnuclear orbital plus molecular orbital (NOMO)法を発展させることを基本に進めている。本年度は,まずプロトン移動などに見られる多重井戸方ポテンシャル系にNOMO法を適用させるための拡張を行った。さらに,ダイナミックスには不可欠なNOMO法に対するエネルギー勾配法を開発した。我々は本特定領域に参加するにあたって,実在系に対する様々な応用計算を想定している。その際,計算結果の効果的な解析が重要と考え,解析手法の充実も同時に検討している。その柱となるのが,我々が先に提案したエネルギー密度解析(EDA)で,本年度もいくつかの理論的な発展を行った。
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