研究概要 |
(a)二温度系への数値計算技法の提案 ランダムスピン系の統計力学的な取扱いでは,要素間の相互作用が確率的なランダム変数で与えられて、その元で要素が熱揺らぎを受けていると考える.その結果、必然的に二重平均の統計力学の形式になるが,それぞれ遅い変数と速い変数と考えることも出来る.そこで二つの変数は時間スケールが分離されていて,異なる熱浴と接すると考えるとランダム系を一般化した二温度系が定式化される. ランダムスピン系だけでなく,学習理論や進化の問題も広い意味ではこの範疇に入る.本年度の研究では,この系を数値計算の方法で調べる際の一つの方法を提案した.具体的には遅い変数に対して,陽にモンテカルロ法を行うことである.これを現実的にするには速い変数の計算の加速化が必要であるが,我々は信念伝搬法と組み合わせることで実現し,ある種のランダム系で実際にうまくいくことを示した.この方法は信念伝搬法が使える問題に適用は限定されるものの,ランダムスピン系を含めた広い応用範囲がある. (b)二次転移における拡張スケーリング則 二次転移近傍で特異性を表すスケール則が成り立つことは古くから知られていたが,そのスケール変数は選択に自由度があり,決定的な選び方はこれまでなかった.むしろ,その善し悪しについては議論されてこなかったと考えられる.我々は高温展開との接続を考え,自然なスケール変数と特異的でない定数の決め方を提案した.特に従来スケール則に対する補正項が大きいと考えられていた比熱については,その補正項の系統的な導出方法まで与えた.その結果、従来考えられたよりもかなり広い変数領域でスケール則が成り立っているように見えることが分かった.この考えは有限サイズスケーリング則への展開も可能で,熱力学極限をとらえるように有限サイズ効果を系統的に求める方法にもなっている.スピングラス系への応用は論文として発表され,一般の強磁性転移と様々な物理量についての系統的なルールについてまとめたものは現在投稿中である.
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