研究概要 |
シミュレーテッド・アニーリングでは,古典的ハミルトニアンで表現されるエネルギー関数が与えられたとき,統計力学の方法に基づき人工的な温度変数を導入することによって状態空間の中の遷移を促し,温度を徐々に下げることによって最適解に到達することを目指す。これに対して,量子力学を利用した量子アニーリングでは,トンネル効果により状態間の遷移を誘導し,最適解の探索を行う。量子アニーリングは量子断熱計算と呼ばれる量子アルゴリズムを含んでいる。量子断熱計算は,量子アニーリングにおいてパラメータの時間変化が非常にゆっくりになった極限と見なすことが出来る。量子断熱計算は最近盛んに研究されているが,困難な問題に対して新たな解決法を見いだすものではないという例が数多く報告されている。私たちは,量子アニーリングにおいてパラメータの時間変化が必ずしも非常にゆっくりではない場合にも最適化問題のある側面を明らかにすることが出来ることを示した。すなわち,非平衡統計力学における最近の重要な成果であるジャルジンスキー等式の考え方を量子アニーリングに適用し,パラメータを有限の速さで変化させる量子アニーリングのプロセスについて成立する厳密な等式や不等式を数多く証明した。その一つによると,有限速度の量子アニーリングを一度行っただけでは必ずしも正解に到達しないが,多数回試みることにより最適解に到達する可能性がある。これにより,従来の計算時間の評価の問題が計算回数の問題に添加させられることが明らかになり,新たな発展の道を開いた。
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