研究概要 |
本研究は,複雑な形状の確率分布に対する近似精度を向上させるためのアイデアとして研究代表者が最近提案した「レプリカ拡張」の方法を様々な系に適用し,その有効性と限界を明らかにすることを目的としている.今年度は主に以下の2つの観点から研究を進めた. (1)レプリカ拡張の数理統計学的特徴づけ レプリカ拡張では対象となる系をn個複製したシステム全体を平均場近似し,レプリカ間に対称性を課しながらnを実数に解析接続する.この際,自然数のnに対しては全体系が指数型分布となる一方で実数のnではその性質が失われる,という著しい違いが現れる.我々はこの点にレプリカ拡張に関する本質が潜んでいると予想し,数理統計学における基本的な量であるフィッシャー情報量に焦点を当てて,自然数のnと実数のnとの差異を考察し0<n<1の間に特異的な振舞いが現れることならびに種々め周辺分布に関するフィッシャー情報量間の関係式を見出した.この成果は日本物理学会2007年度春季大会にて「結合された温度の異なる2つのランジュバン方程式で記述される系の定常状態の研究」として発表された. (2)適応的TAP法のレプリカ拡張に関する予備的研究 適応的TAP法にレプリカ拡張を導入するための予備的研究を行った.具体的には2体相互作用の全結合スピングラス模型を一般的に表現するための枠組みとして相互作用行列の固有値分布により系を特徴付けるモデル化を考察した.その結果,このモデル化はSK模型やHopfield模型のような独立同一分布の乱数によって特徴付けられるシステムとはTAP法と解く際のアルゴリズムの振る舞いがかなり異なるという予備的結果を得た.なお、この成果の一部をCDMA通信方式に応用した結果はEurophysics Letters 76,1193-1999(2006)として公表された.
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