平成18年度は、2元行列アンサンブルの拡大アンサンブルについて、その平均ストッピングセット重み分布に関して研究を行った。平均ストッピングセット重み分布は、LDPC符号の消失通信路上での性能を評価するために必要となる。冗長行の追加による行列の拡大により、平均ストッピングセット重みが改善されることが研究の結果明らかとなってきた。また、符号長が無限大であるときの重み分布の漸近的な振る舞いについても解析を進め、漸近重み分布に関する新しい知見を得た。従来の疎行列アンサンブルより消失復号特性の優れる拡大行列アンサンブルが存在することが示された点は理論的に興味深いものと考える。この結果については、情報理論分野の国際会議であるInternational Symposium on Information Theory 2007(採択率65%程度)にすでに採択され、発表の予定である。またこの成果は、情報理論に関する論文誌IEEE Transaction on Information Theoryに投稿予定である。さらにLDPC符号の復号として凸計画問題に基づく復号法の検討を開始した。パーシャルレスポンス通信路、シンボル間干渉通信路、MIMO通信路などを含む線形チャネルに適した復号法であり、予定どおりに動作すれば広い応用分野を持つものと考えている。現時点では、まだ予備実験の段階であるが復号処理が可能であることがわかっており、平成19年度の本研究課題における主要な研究テーマとして位置づける予定である。提案復号法は、目的関数である符号語と受信語の間のユークリッド2乗距離を最小化するアルゴリズムである。特にグラディエント情報のみならず、目的関数のヘッセ行列の情報を利用することが速い収束速度を持つ復号アルゴリズムを構成するための鍵になると考えている。また、符号長に関して線形オーダの計算量でグラディエントとヘッセ行列を近似計算する必要があり、その部分の検討も重要である。
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