単一磁束量子回路の低消費電力性と高速性に加え、我々は信号を空間的に局在した電磁波として集積回路内の導波路を光速で伝送させる技術を開発、これを局在電磁波集積回路とした。しかし、高速性の反面、占有面積が大きく、高集積化に対しての課題を残していた。本研究ではこの課題の克服に向けて、新しい材料を利用することでジョセフソン接合(以下、単に「接合」と書く)の高性能化(高速化、高インピーダンス化)を図り、現在の2-4倍の速度向上と1桁以上の高密度化を目指す。具体的な課題・計画は、以下の通りである。なお、(2)(3)は申請当初は無かった課題であるが領域の目標達成に向け、領域内会議により、新たに始めた課題である。 (1)セルフオーバーダンプNbN接合の開発 超伝導電極(S)としてNbより臨界温度の高いNbNを用い、高速化と高インピーダンス化を図る。同時に超伝導ギャップ電圧以下でのトンネル抵抗値を大幅に低減化し、セルフオーバーダンプ特性(電流-電圧特性上にヒステリシスが見られない特性)を目指す。この特性では、外部シャント抵抗が不要になることから面積の低減化に貢献する。接合の構造としてはトンネル障壁層(I)にAlN、常伝導近接効果層(N)にNbN_xを持ったNbN/AlN/NbN_x/NbN構造を追究する。 H20年度までに、SIS構造の接合の最適化とSINS構造でのセルフオーバーダンプ特性の獲得を目指す。H21年度は、Nb接合よりも大きな特性電圧(>1.5mV)を実証する。 (2)MgB_2ジョセフソン接合の作製・評価 NbNよりも臨界温度の高いMgB_2薄膜を利用し、これまで報告されている値よりも大きな特性電圧を目指す。薄膜、および三層構造は同じA01班に所属する農工大・内藤教授のグループが作製し、加工評価を我々が行う。 (3)局在電磁波集積回路応用システムの開発 局在電磁波集積回路の応用として、超伝導転移端センサを多数搭載したシステムの信号処理回路を開発する。具体的には、検出器からの信号をデジタル化し、他の信号と時分割多重化し出力する機能を持たせる。また、どれか1個の検出器に信号が到来した場合にその検出器を選択し、デジタル出力を室温へ送るイベント駆動A/D変換器を研究する。
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