1.NMDA受容体のGluN2Aサブユニットのチロシンリン酸化がうつ様行動に関与することを明らかにした。GluN2Aサブユニットで最も強くリン酸化されるチロシン残基(Tyr1325)をフェニルアラニンに置換した変異型サブユニットを発現するノックインマウスを作製し、その機能解析を進めた。この変異マウスの線条体スライス標本のmedial spiny neuronでは、チロシンリン酸化酵素であるSrcによるNMDA受容体シナプス応答の増強が消失していた。個体レベルでの行動実験では、tail suspension testとforced swim testにおいて、不動時間が変異型マウスで有意に減少しており、この変異により抗うつ様の表現型が出現することが明らかとなった。また、この変異型マウスでは、線条体におけるDARPP-32のリン酸化が増加し、カルシニューリンの酵素活性が低下していることも見出した。 2.シナプス後細胞の反復する活動電位により非ヘブ型の長期増強(LTP)が誘導されることを明らかにした。マウス海馬スライス標本において、CA1領域の錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録法によりAMPA受容体によって媒介される興奮性シナプス電流を記録した。NMDA受容体阻害薬の存在下で、シナプス後細胞に脱分極パルスを繰り返し与えるとシナプス応答が長期的に増強した。このLTPはL型カルシウムチャネルのブロッカーにより抑制され、CaMKIIの阻害薬により減弱した。また、微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)も、電気刺激により誘発されるEPSCと同程度の増大を示したことから、このLTPは入力非特異的にシナプス後細胞のほとんどのシナプスで誘導されることも明らかとなった。さらに、電流固定下で活動電位を繰り返し発生させても同様のLTPを誘導することができた。
|