1.不安様行動の分子機構を明らかにするために、NMDA受容体のGluN2Bサブユニットのチロシン1472をフェニルアラニンに置換し、チロシンリン酸化がほとんど入らない遺伝子改変マウスを用いて行動学的および生化学的解析を進めた。この変異マウスでは、高架式十字迷路を用いた行動実験で、不安様行動の亢進がみられるとともに、扁桃体におけるコルチコトロピン放出因子(CRF)の発現が増加していた。変異マウスの扁桃体にCRF受容体の阻害薬を投与すると、不安様行動の亢進が抑制された。さらに、高架式十字迷路を用いた行動実験を課した正常マウスでは、チロシン1472のリン酸化が減少するとともに、CRFの発現が増加することも見出した。したがって、GluN2Bサブユニットのチロシン1472のリン酸化が不安様行動の調節に重要な役割を果たすことが明らかとなった。 2.海馬歯状回における興奮性シナプス伝達の長期増強(LTP)は、海馬CA1領域と同様、NMDA受容体依存的に誘導されるが、抑制性入力によるLTPの調節には両脳領域間で異なることが示唆されていたが、その詳細は不明であった。歯状回とCA1領域間でGABAによる抑制を比較したところ、高頻度刺激により誘発されるシナプス応答は、歯状回により強い抑制性の影響を与えることが明らかとなった。また、シナプス外のGABA_A受容体によるトニック抑制も歯状回により強い抑制性の影響を与えることも明らかとなり、これらの結果から、歯状回ではLTPの誘導の際の抑制性入力の関与が海馬CA1領域に比べてより大きいことが判明した。
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