研究概要 |
素粒子標準模型の検証と予言の抽出には, QCDを中心として, 大規模数値シミュレーションが重要な役割を果たしてきた. 特に筑波大学を中心とする我々のグループでは, 超高速計算機の開発・製作にまで踏み込む研究手法により, 格子QCD全般にわたって大きな成果を挙げてきた. 本研究課題においては, この研究を一層進め、格子QCDの最大の課題である, 軽いクォーク(u, d, s)全ての真空偏極効果(対生成・対消滅効果)を取り入れた「完全な格子QCDシミュレーション」を実現し, これによって 1980年代以来追求されて来たQCD第一原理に基づく強い相互作用の解明と素粒子標準理論の確立に大きな区切りとなる成果を目的とする. さらに, ハドロン単体の解明を超えて, ハドロンの多体系即ち原子核自体を格子QCDを基礎として研究する方向など, 将来を展望した研究を開拓することを目指す. 従来のシミュレーションではπ中間子質量を500MeV程度まで軽くすることが限界であり, 物理的質量135MeVまでの外挿の不定性が, 信頼性の高い結果を確立する上で重大な問題であった. 本課題では筑波大学計算科学研究センターにおいて開発・製作された超並列クラスタPACS-CSの計算能力と, Luescher等による最新の領域分割HMC計算アルゴリズムの適用による計算効率の高度化により, 現実に近い極めて軽いu,d, sクォークによるシミュレーションを行うことにより、QCDの第一原理に基づく強い相互作用の深い理解を達成する.
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