高分子科学において、10~100 nm の空間領域はとりわけ重要な意味をもっている。高分子一分子鎖の大きさは数10 nm であり、物質を構成する基本単位としての分子鎖がこのスケ-ルを占めているからである。最近、ナノスケ-ルの科学が注目され、分子物性をマクロ機能に結び付けることにより、革新的な機能材料の創成が期待されているが、残念ながら機能の根源となる分子鎖レベルのナノ構造を評価する手段はなかった。特にソフトマテリアルである高分子材料の実像をあるがままに観測する意義は学術的にも産業的にも極めて大きく、これまで統計的手法や分子モデル、平均値で表現されてきた現実を、可視化された実像をもとに明快に証明することに挑戦した。 具体的には、100 nm 以下の空間領域を可視化できる近接場光学顕微鏡という新たな手段を開発し、高分子科学の重要事項を単一分子鎖レベルの実像に基づいて実証的に研究することを目的としている。研究計画として次の4項目の目標を設定している。 (1) 高分子固体内での高分子鎖の広がりに関する研究 (2) 高分子鎖の配向性に関する研究 (3) 高分子鎖の空間分布に関する研究 (4) 高分子鎖一本での分光分析に関する研究 近接場光学顕微鏡の優れた能力を活かして、これまでの高分子科学では行えなかった分子鎖レベルからの構造と機能を探求する基盤的研究を展開する。
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