研究概要 |
1.溶媒として水及び重水を用いて、グリシンの過飽和溶液を作製した。そこへ1.1Wの光強度を持つ連続発振赤外レーザーを対物レンズにより集光し、光圧によるグリシンの結晶化を試みた。その結果、どちらの溶媒を用いた場合も、グリシン結晶化を誘起することに成功した。本結果は,連続発振のレーザーのみで結晶化に成功した世界で最初の実験例である。連続発振レーザーの出力は、パルスレーザーの尖頭値に比べて低く,比較的マイルドな条件での結晶化が可能となる。このことにより,耐光性が低く,結晶になりにくい蛋白質や薬剤化合物に対する結晶化法として有用であるといえ、20年度のテーマである「光圧によるタンパク質結晶化」への実現性を大きく高めた結果といえる。 2.光圧によるグリシン結晶化の結果により、分子・クラスターのレベルにおいて光圧は有効に作用するということが分かり、次に光圧による結晶成長促進の実験を行った。1の手法または自然に析出した結晶の近傍に連続発振赤外レーザーを集光した。その結果、集光スポットの方向に再度結晶の成長が始まり、またその成長速度はスポットに近づくにつれて増加することが分かった。また、本来の結晶成長方向でない方向に集光した場合も結晶成長は見られ、結晶成長を制御できるという大変斬新な結果を得ることに成功した。この結果は産業的な利用価値もあると考え、特許も出願した。 3.光圧によるグリシン結晶化に対する照射レーザーの偏光依存性を調べた。溶媒として重水を用いた場合、直線偏光と円偏光で作製される結晶形は異なり、偏光を変える事により結晶形を作り分けられることがわかった。この結果は、以前に報告されているパルスレーザーによる結晶化誘起と逆の結晶形をもつ結晶が得られており、本手法のメカニズムは大変興味深く、20年度の研究テーマとする。
|