本年度は、ジベレリン(GA)の構造とその受容体GID1との結合様式について、GA分子との結合特異性や親和性に関して進化途上にあると考えられるシダ(イヌカタヒバ)と、充分に進化したと考えられるイネのGID1の構造を比較することにより行った。活性型GA分子に必須な構造としてC6位COOH、C3位OH、また活性型と不活性型のGAを区別する基としてC2位OHが知られる。そこで、まずこれらの基と相互作用するGID1側のアミノ酸残基をその立体構造から予想し、それらをアラニンに置換した。その結果、C6位COOHとの結合に関与する残基についてそれらを変位させるとGID1-GAの結合性は低下した。一方、C3位OHとの結合残基については、Sl27のAへの置換では、GID1-GAの結合性は余り影響を受けないことが分かった。実際、イヌカタヒバに存在するSmGID1bでは、このS127がMとなっており、この変異がイヌカタヒバにおけるユニークなGA反応性を担っていると考えられた。さらに、GID1-GAの結合性は、これらの親水的な相互作用だけでなく、エントカウレン環とGID1との疎水的な相互作用も重要であることが知られている。そこで、この疎水的な相互作用を支えているいくつかの残基を変位させたところ、全ての残基の置換がGID1-GAの結合性に多少なり影響を与えることが確認できた。これに対して、C2位OHと相互作用する残基については、L330がシダSmGIDla、bともに1に、1133がSmGID1aではL、bではVに置換されていた。イネのGID1についてこれらの置換を導入すると、変異型GID1はシダのGID1と類似した性質、すなわち2位OHを排除する機能を喪失した性質を持つことが明らかとなった。これらの結果から、GID1は植物進化に伴って、GAとの親和性や特異性を高める方向に分子進化したと結論した。
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