細胞外マトリックスの主要成分であるラミニンは、α、βおよびγ鎖が会合した十字架状の巨大タンパク質である。人体細胞の増殖・分化・遊走に強い影響を与えて、各種組織の形成や再生に重要な働きをしている。ヒトではα1-α5鎖、β1-β3鎖とγ1-γ3鎖が発見されており、これらが互換的に会合して16種類もの三量体を形成していて、それぞれが発生・形態形成の各局面で特異的な働きをしている。本研究では、このような生体内でのラミニンの機能構造を分子レベルで明らかにするとともに、ラミニンの量産系を構築してそれを医薬応用へ展開するために、以下の検討を行った。 1)ラミニン・ファミリー分子群の量産系の構築を目的に、最もサイズが小さいラミニン-332(α3β3γ2)、および血管新生に関わるラミニン-411(α4β1γ1)を最初の標的とした。手始めに、バキュロウイルス感染カイコ細胞から抽出した無細胞翻訳系にそれぞれのラミニン構成鎖のmRNAを翻訳させて、各鎖を個別に、あるいは混合して合成した。その結果、β鎖とγ鎖の二量体は検出されたが、それにα鎖が会合した三量体はほとんど検出されなかった。一方、無細胞翻訳系においても各鎖間のジスルフィド結合が形成されていることを明らかにした。ラミニン構成鎖は会合領域内にあるコイルドコイル領域で相互認識する能力があるので、適正な構成鎖を試験管内で混合するだけで三量体を形成すると期待されたが、今後は会合条件を検討して三量体の形成を目指す。 2)ヒト・ラミニンα1鎖遺伝子のプロモーター領域を単離し、微絨毛癌細胞で過剰に発現する機構を解析した。ヒト・ラミニンα1鎖遺伝子のプロモーター領域の近傍に、転写因子Sp1/Sp3とKLF4/KLF6の結合部位を同定し、これらの因子が遺伝子発現に協調して働くことを明らかにした。
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