研究概要 |
増殖中の細胞がDNAの損傷を受けると,細胞周期のチェックポイント機構が働き細胞周期の進行を停止させ,修復を行う。この機構の不具合は,細胞死を招くのみならず,発癌の促進にも繋がる。従来,細胞周期のS期では,二種類のチェックポイント機構,すなわちCHK1-Cdc25A経路とp53-p21経路のうち,前者のみが使用されるとされていた。本研究では, DNA損傷の方法や強さの違いで,後者の経路が活性化され長期のCdk2の不活化とS期停止が引き起こされることを見出した。更に後者の経路の活用を決定している分子機構を探索した結果,複製開始に必須な因子の一つで複製前複合体の形成を司る,Cdc6タンパクがこの活用に中心的な役割を演じていることを見出した。すなわち,S期でCdc6タンパクの分解を引き起こすようなアルキル化剤によるDNA障害や紫外線照射時にRNA干渉によりCdc6の発現レベルを下げると,必ずp21がCdc2に結合しこの不活化が起こる。そこで,この分子機構を探った結果,ATP依存性リモデリング因子であるCdc6タンパクがATPの加水分解エネルギーを利用し,結合したp21を引き剥がしCdk2を活性化する機能を有す得ること,すなわちこれまで全く想定されなかったCdc6タンパクの機能が明らかになった。この成果は,これまで単なる複製前複合体形成に必須な因子としてしか働いていないと思われていたCdc6をS期進行の主たる制御因子として再定義すると同時に,これまで想定されていなかったCdk2の新しい制御機構の存在を明らかにしたものである。
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