研究概要 |
当研究は、足場依存性・非依存性S期開始および進行の制御機構、すなわち発癌の根底機構の解明を目指すものである。本最終年度は、これまでの集大成として足場シグナルによる細胞周期のG1-S期遷移制御の分子機構の全体像がほぼ判明した。加えてG1期細胞周期制御因子の発現操作によって、足場非依存性細胞増殖をラット胎性線維芽細胞に誘導することに成功し、その機構を詳細に検討することによってG1-S遷移制御に複製開始前複合体形成に必須なCdc6がDNA複製の開始に必要なCdk2の活性化に中心的な役割をしていることを見出した。具体的には、以下のシグナル経路およびS期開始機構が明らかになった。1)細胞膜インテグリンによって感知された足場シグナルは、RhoA依存性にRockを活性化する。2)活性化されたRockは、結節性硬化症の原因遺伝子の一つであるTsc2の1203Tをリン酸化することによってTsc2を不活化しmTORC1を活性化する。3)活性化されたmTORC1は、Cdk4/6を活性化(機構の詳細は不明)し、それによってE2F転写因子が活性化され、Cdc6,Emi1やサイクリンAが発現誘導される。他方、活性化されたRockは、不活化されたcdk2に結合しているp27Kip1のC末端を酸化する。4)発現誘導されたcdc6は、C末端がリン酸化されたp27をATP依存性に剥がしCdk2を活性化し、S期が始まる。足場非依存性細胞増殖は、CKIによる阻害がかからないCdk6/サイクリンD3、Cdc6の高発現およびmTORC1の活性化によって誘導できる。この場合、Cdk6は、足場がない状態でE2Fの活性化できるのみならず、Pim1およびRockを活性化(安定化)し、p27のC末端のリン酸化を促進する。
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