研究概要 |
多発性硬化症(MS)は再発と寛解を繰り返す自己免疫疾患で、患者個々の疾患活動性を適切に評価し、再発リスクを予知する方法の開発が待ち望まれている。しかし、治療方針の決定は経験と勘に頼るところが大きく、医療現場では問題が山積している。我々は、最近、MS患者NK細胞のCD11c発現レベルが疾患活動性と相関することを示し、バイオマーカーとして用いうる可能性を提唱した(Aranami, et. al.J.Immuonol.177:5659,2006)。MSのバイオマーカーの確立に向けて、本年度は、NK細胞CD11c発現の経時的変化、CD11c発現と相関する分子群や細胞内サイトカインの同定などに関する研究を進めた。患者NK細胞のDNAマイクロアレイによる発現解析の結果、CD11c発現増強とNK細胞における抗アポトーシス蛋白発現低下に明らかな関連を認めた。さらに、ケモカイン受容体、Th細胞関連分子、細胞活性化分子などの発現をフローサイトメトリーで解析した結果、NK細胞のCD11c発現とNK細胞頻度が逆相関を示すことが明らかになった(相関係数-0.31、p value=0.000049)。試験管内実験では、NK細胞のCD11c発現は炎症性サイトカインの添加によって誘導できる。しかし、患者血清サイトカイン濃度(IL-12、IL-18、IL-15、TNF-α)は、NK細胞のCD11c発現レベルと相関しなかった。以上から、患者NK細胞CD11c発現亢進は、NK細胞のアポトーシス増加によるNK細胞の頻度減少と密接に関連し、NK細胞の変調によってMS再発のリスクが高まることを示唆する。我々はNK細胞の変化を多面的に捉えることによって、MSの客観的な病態評価が可能であると考えている。
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